SD奨学金紀行@アリゾナ


スラムダンク奨学金2期生として、昨年サウスケントスクールでの課程を終えた二人、谷口大智、早川ジミーは現在アリゾナウェスタン大学という2年制の短大に行ってプレイをしている。

1月30日。今日彼らはメサコミュニティカレッジまで約3時間バスに乗って移動し、そこで試合である。

昨年(追記:じゃなくて2009年12月でしたね。「サウスケント紀行その4」をご参照くだされ。。)サウスケントスクールに二人を訪ねたときにもチームによくなじんでいるように見えたが、ここでも同じ、いやさらにもっとなじんでいるように見えた。もっといえば、アメリカそのものになじんできたという感じか。

体はますます大きく、強くなっているように見える。それもなじんでいるように見える理由のひとつかも。なんせアメリカ人はみな太いですからね。大智は来た当初はまだ線の細さが目についたが今はそれはない。聞くと二人とも筋肉が増えて、大智は10キロ増えたというし、もともと大きかったジミーも93キロまで増えてさらに強靭な体になっている。

僕個人は筋肉信奉者ではないが(?)、体と体が激しくぶつかり合う音を聞き、コートに叩き付けられるのを目の前で見れば、筋肉の鎧をまとう必要に迫られるのもうなずける。実際ジミーはこれまでに僕の見た試合後には必ずどこかに生傷をつくっている。この晩の試合後も頬を2センチほどカットしていたし、密集地帯に飛び込みリバウンドを奪ってはフロアに叩き付けられた。

シーズン開幕からしばらくはなかなか試合に使ってもえらえず、コーチにとって自分は15人中15番目の選手に過ぎなかったはずだとジミーは言った。選手にとって試合に出られないことほどきついことはない。しかし同様の苦しい経験をサウスケント時代に味わっていたことで、彼はどうするべきかを知っていた。状況を打開するためにやるべきことは何かを考え、腐らずに、やれることを懸命にやるしかないと。

・・と、周りが口で言うのは簡単だが・・・・。
使われない、その理由も分からないという時期は、ほんとうに苦しかったろうなと思う。

彼がディフェンスでチームに何かをもたらすことができるということに、AW大のヘッドコーチはあるとき気づいた。(あるいはもともと知っていたのか)そしてシーズン途中からスタメンで起用されるようになった。アメリカに来てからずっと直面してきた、出場時間をもらえないという苦しみに、ジミーはいま打ち勝とうとしている。

バスケットの専門家ではないのでもしかしたら贔屓目も多分に含まれてるかもしれないことをおことわりしつつ、試合を見て僕の感じた印象をいくつか。

大智は日本にいたらおそらくかなわなかったであろう、3番、あるいは2番でのプレイに挑戦中。この日は2番でのスタメン起用(2番は初)。初めての割にディフェンス(ゾーン)も大過なかったと思う。3pシュートの確率ではチームNo.1でもあり、この日も何本か沈めて見せた。シューターとしての信頼を固めつつある。それを信頼の土台としてますます磨きつつ、もっとできることを増やすことが(ゴールにアタックすること等)課題であることは本人も自覚して努力中とのこと。この日は慣れない2番のため、終盤は脚に来てしまい、シュートがブレブレに。そこもこれからの課題のひとつ。

ジミーは(本人はどう思ってるか分からないがこの際断言)、チームで一番のタフガイ。相手のエースをフェイスガードで封じ込めることができる。密集地帯の、どっちのか分からないボールに飛び込むことをいとわない。そんないわゆるハッスルプレイは、スタッツには表れなくとも、チームの流れ、雰囲気を変えられるビッグプレイだ。外から見た印象ではAZ大チーム全体はややおとなしく見えた(負けたからかもしれないけど)。それだけに彼は、精神的タフネス、闘う姿勢を、遠慮なくチームに伝えるリーダーになれる。そのことをそろそろ意識すべきだと思った。

この夜のゲーム、AW大は、序盤のビハインドを追いつける機会を得ながらも結局最後までとらえることができず、負けた。チームも個人も改善していくべきことがまだまだあるのだろう。

だがこの夜二人の日本人が見せた、ひとつの困難な時期を乗り越え、新たな段階に進みつつあることからくる自信と充実。それは日本から会いに来た僕たちを幸せな気持ちにさせてくれた。

プェニックスの空港へ向かう道すがらフロントガラスに雨が落ちてきた。
空に目をやると、グレーの雨雲の向こうに大きな虹がかかっていた。

サウスケント、3期生の矢代雪次郎のいるところは今、雨か。それとも吹雪か。

やまない雨はないと信じつつ、東へと向かう。

 
井上雄彦 
01/31/2011

 

SD奨学金紀行@サウスケント


初めて全国的に名の知られてない選手がこのスラムダンク奨学金で海を渡った。

それが3期生矢代雪次郎。

1期生、2期生の3人はいずれも高校時代全国でも名だたる強豪校のエース格で、年代の日本代表にも選ばれている選手。そんな彼らでもこのチームに入ってプレイ時間をもらい、結果を出すのにはいくつもの壁が立ちはだかった。千葉県5位のチームからこのサウスケントスクールにやってきた雪次郎にもまた、彼ら以上に困難なチャレンジが待ち受けているだろうことは想像に難くなかった。

最終的にSKSのJeffersonヘッドコーチが彼を選んだときはうれしかった。雪次郎の挑戦はそれだけで多くの子供を勇気づけるからだ。インターハイに出られない無名のチームの選手でも、
「自分はバスケで食っていく」
「アメリカで挑戦したい」
という意志を持つ選手は全国にたくさんいるはず。そんな高校生、あるいは中学生たちに、挑戦する前から、
「でも自分には無理」
と、あきらめてほしくはなかった。

心からの思いを、傷つくのを回避するために早々に引っ込めてほしくない。
僕らは何かの結果のために今を生きているのではない。
挑戦の一瞬一瞬が、本番の舞台だ。選考の結果選ばれなかった応募者も含め、本気で勇気を持って前に踏み出した瞬間は、その後もずっと心の奥で光る宝だ。

もちろん彼自身に等身大以上のものを負わせるつもりは全くないが、彼の挑戦そのものが、結果的にたくさんの子供たちの背中を少し押してくれるとうれしいと思っている。


なんか前置きが長くなっちゃいました。



4月の渡米以来およそ9ヶ月がたった。

日本からやってきたPGは今シーズン開幕直前の練習中のアクシデントでケガをしてしまい、手術を受けて、約2ヶ月の間練習に参加できないという試練をいきなり味わった。

ただでさえ初めての異国に一人、英語もまだ分からない、バスケだけが自分の存在を確かめられる、希望の命綱だったはずの頃。立っている足もとの地面から崩れていくような、そんな不安と焦りがあっただろうか。その心のうちは僕らには想像することしかできない。

ようやくケガが治り、復帰してから数週間。そんな時期にサウスケントを訪ねた。SKSのホームゲームを観戦する。

・・つもりだったが、大雪による交通事情から、ゲストチームのバスでの移動が困難ということで試合がキャンセルになった。がーん

楽しみにしてたのに・・まあ雪だからしょうがないか。とにかく雪次郎に会って、練習を見てくるとする。



表情は明るかった。

日本にいる頃からの、礼儀正しく、言葉を尽くして思いを伝えようとする態度は変わっていなかった。これも彼の宝だ。

校内は何十センチかの雪に覆われ、ジムの屋根からはぶっとくて長いつららがいくつも下がっている。こんな迫力あるつらら見たことない。

練習が始まった。

ストレッチでは雪次郎が輪の真ん中で号令、我々が来てたからその役をやらされたのかとも思ったが、近頃はいつもそうらしい。ときどき日本語で「1、2、」とカウントして、仲間もそのまねをして「イーチ、ニー、」と言って喜んでいた。英語はまだまだ分からないことも多いが、いつもチームの仲間と一緒にいるようにしているそうだ。自分から壁をつくらない、大切なことだ。おじさんも見習うべきことである。

声を出す選手、リーダーがいないとコーチも言っていたが、今年のチームは去年と比べるとややおとなしい印象。よくも悪くもアクが強くない。

手術をしたところにはテーピングが巻かれている。

練習はディフェンス主体のものが続く。
見ていると、走力とかディフェンスのフットワークは問題ない。テクニック系のPGとのマッチアップにはもう少し慣れが必要かもしれない。

ゲームの状況を想定した実戦形式の練習へと移っていく。
以前よりプレイに力強さがあるように感じるが、力んでもいる。
僕らが見てるからかいつもそうなのか、気持ちが入りすぎて自分の間合いでプレイできてない感じがした。

練習後そのことをこちらから聞くまでもなく、本人が認めた。
「実戦的な練習であそこまで(PGの仕事を)やらせてもらったのは初めてでうれしかったから、はりきりすぎてしまった」と。コーチの認識では、ちょうどこの日くらいまではまだ、練習に参加してるとはいえチームに復帰していくプロセスということだったのかもしれない。だとするとこれからギアを上げていくことが求められるだろう。


練習前には、先日コネチカット大の練習を見に行って大きく刺激を受けたこと、大学でプレイすることへの思いが強くなったことを話してくれた。チームメイトのガードの1人がシンシナティ大行きが決まり、彼と自分との距離、自分と大学との距離が測りやすくなった、その距離は確かにそこにあるが、全く届かない気もしない、と自分の熱い思いを口にしていた。また、「なぜ試合に使ってもらえないのかな」とも。

この日の練習後には、「だめだ、これじゃ試合に使ってもらえないのもあたりまえ」と自己反省の言葉が口をついた。ケガで出遅れたことも影響しているだろうが、試合ではまだ出場時間をあまりもらえていない現状。

1期生の並里成(現JBLリンク栃木ブレックス所属)や2期生のジミーもそうだったが、自分にはできると思っていても試合に使ってもらえない状況は苦しい。しかしその状況はこれから先どのカテゴリーに行っても起こりうる状況でもある。いずれにせよそれで腐ってしまってはその先の道はない。

バスケットに限らず、ときどき別の視座から見てみることは自分を助けると僕は思っている。

「試合に出してくれないコーチは自分にいったい何を求めているのか?」

ばかりを考えるのは、ともすると、

「自分はプレイ時間をもらうべきだ」>「なのにくれない」>「コーチが悪い」

という思考に陥る危険性がある。そこで別の視点から、

「このチームにプラスをもたらすために自分ができることは何か?」

を考え、実行してみるのも良いだろう。
そんなようなことを伝えた。

強気と弱気が交互に顔を現す。
強気は、努めてそう振る舞っているところもあるだろう。自分を鼓舞する意味で。
負けるなよ、と思う。


ときどき、この奨学金のゴールは将来NBAに入ることか、という質問をいただくが、そうではない。
今この夜にも、サウスケントの、アリゾナウェスタンの、栃木のジムで、彼らがシューティングをしているかもしれない。

そんな瞬間もまたゴールなのだ。

 
井上雄彦 
02/03/2011